エピソード7『お仕事済んで日が暮れて』

 ある日のロケーションでの出来事です。その日の撮影シーンは、お姫様を乗せた籠を黒覆面の一団が襲い掛かり、供侍との間で激しい立ち回りが行われると言う物でした。
 ボクの役は、お姫さまの乗る籠を担ぐ供奴で、ファーストカットは山道を行く行列、籠の中は空だったので其れ程重くはありません。
 2カット目は行列の寄り、3カット目で黒覆面の一団がバラバラっと現われて、行列は止まり、奴は逃げ出す、そして立ち回りが始まります。奴はそれで「おつかれ!」になり、撮影の邪魔になるといけないので(?)小高い丘の上でゴロゴロしていました。小春日和のポカポカでついウトウト、「ハッと!」気が付いたら撮影隊がいなくなっていました。
 携帯電話なんて無い時代です(有っても圏外になる様な山の中だったんですが)。しょうが無いので奴さん4人でトボトボ山道を30分ほど下るとバス停が有りました。バスは一時間に1本位だったのですが、もうすぐやって来る時間でした。暫くすると山道をバスが登って来ましたが、50メートル位手前でぴたっと停まってしまいました。バスには運転手さんだけで、バス停には妖しいチョンマゲ姿の男が4人、山道はUターンも出来ないほど細い、辺りは夕暮れで薄暗くなって来ている。
 10分程その睨み合いは続きました。恐る恐る登って来たバスに手を降って、やっと乗せてもらえました。バスに乗って気が付いたんですが、だれも財布を持っていませんでした・・・。
 笑いを堪える運転手さんに事情を話して、取り敢えずタクシーが拾える所まで乗せてもらって、やっと撮影所に帰る事が出来ました。助監督に文句を言ったら、「撮影が終了して捜したんだけど、姿が見えないので、お姫さま役の女優さんを撮影所に帰す車に同乗して帰ったんだと思って、撮影所に帰ったら居ないので、捜していた所だった」と言うんです。ちなみに14000円のタクシー代は自腹でした。